幡野広志の「考えることからはじめます。」
第1回:このバッグを、持ち歩く理由
ゲスト:Coco&K.代表 井上伸子さん
「おしゃれなバッグね」
スーパーのサッカー台で妻がパンを詰めているとき、隣にいた老婦人から言われたそうだ。
このバッグはフィリピンで販売されているアルミ製のパックジュースを、現地の女性たちがハンドメイドでリメイクしたものだ。
口と底が広く内側がアルミなので、うちではエコバッグとして使っている。
スーパーで使っていると注目されて気分がいい。
クレイジーL ¥6,380税込
このバッグを日本で販売するに至った経緯を知ってもらいたい。
フィリピンは道路や川に捨てられたゴミがとても多い。そして絶対的貧困層が国民の18%と高く、ストリートチルドレンも多い。
ストリートチルドレンの多くは学校に通えず、教育を受けられないため将来の展望が狭くなる。そしてまた貧困が再生産される。
まずはじめにボランティア団体が街を綺麗にするために清掃活動をはじめた。次にゴミを利用して貧困層の収入向上を考え、ジュースのアルミパックをバッグにした。
そこでバッグを展示会に出品したところCoco&K.の井上伸子さんの目にとまった。
井上さんはその場でバッグを200個注文した。即決だった。驚いたのはきっとバッグを出品していたボランティア団体だろう。なにせはじめて展示会に出品したのだ。
期待はしていたかもしれないけど、いきなり大口の注文が日本人から入ったのだ。まさかそこまで売れるとは思わなかっただろう。
どうして即決で200個も注文したのだろうか。いまから20年以上前のことだ。オンライン販売もまだ普及しておらず、ギャンブルのようにリスクの高い注文だ。
(Coco&K.代表、井上伸子さん)
空港で見かけた物乞いや物売りして働くストリートチルドレンが、自分の子どもと年齢が近かったこともあって井上さんは衝撃をおぼえた。
ストリートチルドレンの親も自分たちが置かれている状況を決して良しとしていない。子どもへの罪悪感や自分への無力感をおぼえつつ、貧困から抜けだそうと試行錯誤している。
このバッグはストリートチルドレンの母親たちが子どもを学校に行かせたいという意気込みで作っているのだ。井上さんはその熱意に心を動かされた。
しかし綺麗事だけで商品は売れない。衛生環境の悪さで汚れていたり、ほつれている製品もあった。日本人向けのデザイン提案や商品アイデアを出すも、教育水準の低さで採寸がバラバラの商品もあった。
一過性ではなく継続して売れるように、日本のデパートで売れる品質にするために奮闘した。200個のバッグはすぐに完売した。
トートL ¥3,300税込/トートバックベジタブルS ¥6,600税込
メッシュポーチL ¥2,420税込 /メッシュポーチ ¥2,200税込
街が綺麗になった。アルミパックは地元の小学校で回収されるようになった。そもそも給食にアルミパックのジュースが採用されている。牛乳と違い常温で長期保存ができるので、フィリピンの事情に合っているのだ。
子どもたちはストローを上からさすのではなく、底の方にさしてジュースを飲んでいるそうだ。そのほうがリサイクル加工がしやすいからだ。知らない人が見たら不思議な光景だろう。
現在は印刷所のミスプリントも利用している。これによって編み込んだバッグを作ることもできた。アルミ面を外側に見せているので、一見するとパックジュースとはわからないだろう。
ボランティア団体はNGOになり200人以上の雇用を生み出した。子どもたちが学校に通うことができた。街が変わったのだ。
バッグは高く評価されヨーロッパを中心に世界17カ国に輸出されている。日本ではCoco&K.が一番はじめに契約を結んでいる。
一言でいえば廃棄物をリサイクルしたバッグだけど、商品タグには書ききれない背景がある。
「サステナブル」や「SDGs」という言葉を聞いたことはあるけど、いまいち意味をよく知らない人が多いと思う。
知らないとことがバレただけで意識の高い人から説教されてしまう感もある。
「作る人がしあわせになって、使う人もしあわせになる。誰かの役に立つことで売る人もしあわせになる。」
井上さんが言った言葉が答えのひとつだと思う。
商品に関わった人がみんなしあわせになって、それを継続させましょうということだ。うちでは家族みんなでこのバッグを使っている。
トートバッグベジタブルS ¥6,600税込
Editer & Photographer : hiroshi hatano
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